エス弁 | 〜多様な幸せ、生き方弁当〜

故郷でスタートアップ事業の成功を目標に。(Ipa Saripah: Domestic helper)

インドネシアからシンガポールへ働きに来ているIpah Saripahさん(40歳)

シンガポールの働き方を語る上で外せない存在、それがDomestic helpersです。彼女達は東南アジア諸国からシンガポールへ、故郷の家族を支える為に出稼ぎに来ています。
主にシンガポールの共働き家庭に住み込みで、家事全般・育児・介護のヘルプをします。
現在、シンガポールでDomestic helperとして働くイパさんに、故郷を離れて過ごす今は幸せ?将来はどんな夢があるの?率直に気になることを聞いてみました。

イパさんがシンガポールへ渡るまで

−なぜ出稼ぎ先にシンガポールを選んだのでしょうか?

イパ
イパ

学生時代から、シンガポールがいいところだと聞いていたからです。
身近に実際に行った人がいたわけでもなかったが、給与水準も他の国へ出稼ぎに行くより高いし、私には先進国への憧れが非常にありました。

−実際にシンガポールへ来たのは?

イパ
イパ

26歳の時です。
最初に中国系シンガポーリアン(華人)の家庭へ雇用されてそこで11年、次にオーストラリア人の家庭で3年勤めました。今はまた、最初に雇用された華人の雇用主の家庭でヘルパーをしています。
シンガポールに来てからは14年になりますね。

−今はどんな風な1日を過ごしているんですか?

イパ
イパ

朝起きて、自分の身支度を整えた後はキッチンに向かいます。置いてある洗い物から片付けます。その後ハウスクリーニングをして、洗濯をし、犬の散歩をします。
今のお家は、息子さんが兵役に行っているのでお母さんの一人暮らしなんです。

−私が事前にインターネットなどで調べた記事によると、住み込みのメイドに与えられる部屋は小さなスペースである、などという情報もありました。実際はどうなんでしょうか?

イパ
イパ

私はお母さんと同じ寝室で過ごしていますよ!ベッドも自分の分が与えられています。
別の家庭にヘルパーで入った時も同様に、自分の部屋がちゃんと与えられました。

友人(同じくDomestic helperとして働きに来ている仲間)に聞くと、私のように1部屋貰えている人や、コンパクトな部屋が与えられている人もいますが、ひどい扱いを受けたような話は聞いたことがないですね。
プライベートな空間は与えてもらっている人が多いと思います。

万が一、不当な扱いを受けた場合はきちんとFASTのような団体が助けてくれるはずです。

将来は故郷での起業が目標!

−家族と離れて暮らしていますが、モチベーションはどこから来ていますか?

イパ
イパ

やはりお金の為ですね。
家族をサポートしたいし、実際にここで働いていればそれが叶います。
自分の為にも貯金がしたいんです。故郷に帰ってビジネスを始めようと思っているんです。
だから、Domestic helperとして働くのは今の雇用主との契約で最後にしようと思っているんです。

−いいですね!どんなビジネスか聞かせていただけますか?

イパ
イパ

私のホームタウンはインドネシアの田舎で、都心まで出ないと電化製品やバイクが買えないんです。
だから気軽に村のみんなが行ける距離に販売店を開きたいのです。シティまで出なくても村で電化製品を供給できるように。

−早く実現するといいですね!

イパさんは、故郷を離れてホームシックになることはありますか?
それとも、何でも手に入るシンガポールの方が暮らしやすいと思いますか?

イパ
イパ

たまにホームシックになるけど、今は手軽に電話やSNSで家族や友達と連絡が取れるようになったので、最近は寂しさも薄らいでいます。
シンガポールの方が快適かもしれませんね(笑)

FASTを通じて(スリランカ、フィリピン、インドなど多国籍な)友達もたくさんできたし、シンガポール自体とても暮らしやすい国だと思います。

-お休みの日(日曜日)はどこで過ごしているんですか?

イパ
イパ

大体FASTのスペースにいます。
アクティビティもあるし、フィットネスやカラオケなどいろんな活動ができるから。仲間といれば何をしていても楽しく、ずっとHAPPYです。
街で買い物したり自分にお金をかけることは2ヶ月に1回くらいありますが、時々です。

FASTでイパさんらDomestic helperが習い作ったお花や手芸作品たち。

リフレッシュにもなるし、働いている家庭での生花や手芸のスキルにもなる。


-イパさんの故郷(インドネシア)について教えてください。
女性は出稼ぎにいっていますが、男性たちはどうしているのでしょうか?

イパ
イパ

インドネシアの男性は、造船業など船にまつわる仕事が盛んなので、船のエンジニアなどを生業にしている人は同じようにシンガポールへ出てくる人がいます。

インドネシアの中でシティに出て仕事をする人と、村に残り子どもの面倒を見る人もいます。私の村の男性は半々くらいですね。

女性が出稼ぎで留守にしている家族の面倒は村に残った男性か、義母が見たりしています。

−同じくシンガポールへ出稼ぎしていたり、故郷で家族の面倒を見たりしているんですね。

最後に、聞かせてください。
イパさんは今の暮らしに満足していますか?

イパ
イパ

はい、全てに満足しています。私はとても幸せです!

イパさんはインタビューに答えてくれたこの日、雇用主から外出許可を得て協力をしてくださいました。休暇以外の外出になるからです。幸い、イパさんの雇用主の方は非常に親切な方で快く許可を出してくれたようですが、あくまで雇用主に拠るということは、忘れてはいけない部分だと感じます。

一方でイパさんはインタビュー中もずっと笑顔で、特にお休みの日にFASTの提供するスペースで仲間たちと過ごす時間について話す様子は、本当に楽しそうでした。
イパさんが故郷に戻って自分の夢を叶えることを心から応援しています!

サリー
サリー

FASTのスタッフ、ウィリアムさんがシンガポールのDomestic helperの受け入れ体制やこれまでの沿革についてお話してくれている記事はコチラ
Domestic helpersとシンガポーリアンの共生を見守る(William chew:FAST)

Domestic helpersとシンガポーリアンの共生を見守る(William chew:FAST)

FASTオフィスのロゴの前で。今回、インタビューに応じてくれたウィリアム氏。

シンガポールでは外国人労働者(Domestic Worker)を積極的に受け入れています。中でも各家庭で介護・育児・家事全般をこなす、日本で言うところのメイド(Domestic helper)は実に6家庭に1軒ほどの割合で利用されており、シンガポール人の共働き家庭を支えています。
世界の先進国が注目するこの取り組みを、シンガポール政府公認のNPO団体FAST(Foreign Domestic Worker Association for Social Support and Training)』はずっと支え続けています。
今回は、FAST創立メンバーでもあり、これまで様々な Domestic helperとシンガポールの問題に直面してきたWilliam Chew(ウィリアム・チェウ)氏にお話を聞きながら、シンガポールの働き方とこれから日本が直面する問題を考えてみたいと思います。

この記事を読むにあたって必要な事前知識

・記事の中の「メイド(Domestic helper)」は主に東南アジア(フィリピン、ミャンマー、インドネシアなど)から出稼ぎに来ている女性労働者を指します。

・日本では”メイド”という呼称が浸透しており、職務内容のイメージしやすさやネガティブなイメージはそれほど無いことから、この記事の中でも利用しています。シンガポールでも口語ではメイドと呼ぶこともあるそうですが、英語での表現はDomestic helperとなります。

・シンガポールは貧民層20%、中間層70%、富裕層10%という割合だと言われています。日本では「メイドを雇う」と言えば富裕層家庭のイメージがありますが、シンガポールでは中間層以上の家庭で6軒に1軒はメイド雇用をしており生活に密着しているものだという認識の差があります。

Domestic helperの中枢機関
FAST HUB(ファスト・ハブ)

−FASTは現在、新しい施設を建設中だそうですね。

ウィリアム
ウィリアム

はい。この施設(インタビューを行った場所)が現在は私たちの活動拠点ですが、今後は郊外の大きな敷地に関連施設も全て含めた統合的な施設『FAST HUB』を建設しています。

以前、廃校し老朽化が進んで誰も手をつけていなかった学校を、取り壊すよりは再利用しようということでおよそ2億円規模を投じて建設しています。
しかし資金は足りていないので常にスポンサーは募集しているんです。

現在のFASTオフィスはビルテナントの一角にある。


−下記のYouTubeの施設紹介を拝見しました。

Domestic helperにとって必要な手続きもサポートも何でも揃う、かなり大型の施設となりそうですね。

そもそもどのような手順を経て彼女たちDomestic helperはシンガポールへやってくるのか、システムを教えてください。

ウィリアム
ウィリアム

登場するのは「雇用主」「エージェント」そして「メイド(として働きたい人)」です。

まず、雇用主からエージェントへこんな人材が欲しいとオーダーが来ます。
例えば、産まれたばかりの子どもと、その母親へのサポートが欲しいなど。

それに見合ったスキルを持っていて、人手に空きがあればすぐにアサインできます。
そうでない場合はエージェントから「未経験でもいいか?」「国籍に希望はあるか?」など雇用主にヒアリングが入ります。
給与など諸条件についても合意が取れたら、契約成立。

例えば雇用されるのがフィリピン人の女性なら故郷のフィリピンで、英語のトレーニングやVISAの取得までは行います(Domestic Worker用のVISAが発行される/2年ごと更新)。

−介護や育児などの専門的なスキルはシンガポールに来てから学ぶんですか?

ウィリアム
ウィリアム

はい、ここがシンガポールと他国との違いです。
既にもうスキルを持った人を採用する国が多いですが、我々はシンガポールで人材を育てます。

AEDや介護、育児などのヘルパースキルについて、今は提携のトレーニング企業が行っています。今後はその施設もトレーニングセンターとしてHUBの中へ集約されます。

ですが、そういったスキルを学ぶ前にとても大事な講習があります。

−なんでしょうか?

ウィリアム
ウィリアム

S.I.Pという研修ですが、シンガポールに来て一番最初に必ず受けなくてはいけない政府要請の研修です。

まずはシンガポールの法律を教えます。
当然ですが犯罪、違法薬物など持ち込んではいけないものなど。あとはチューインガムを食べたらダメですよ、とかね。冗談です(笑)

そして道路の渡り方なども教えます。彼女達の故郷は信号も大きな道路も無いですから。

同様に、高層階での生活についても。シンガポールの家庭の80%は30階建ての高層団地で暮らしています。3階以上の建物がほとんどない国からやってくる彼女たちの安全にとって非常に重要な教えです。

−安全、とは?

ウィリアム
ウィリアム

例えば高層階のベランダから洗濯物を干す時などは落下の危険が伴います。
また、雇用主からの要望で高い場所で「もっと手を伸ばしてここを掃除してくれ」など、危険な指示が入った場合は証拠の写真などを撮ってエージェントや我々FASTスタッフに報告するように教えます。

シンガポールの法律では、危険な指示をした雇用主は罰金などの対象になります。

−なるほど。

ウィリアム
ウィリアム

こうしてS.I.Pも受けて、トレーニングセンターで仕事に必要なスキルも学んだら(ここまで大体1、2ヶ月くらい)いよいよ雇用主の元へ働きにいきます。

建設中のHUBでは、来星してから雇用主のところへ派遣されるまでの短期的な宿泊施設も完備しますよ。

−彼女達の待遇はどんな形でしょうか?

ウィリアム
ウィリアム

実はシンガポールへ出稼ぎにくるために借金をする人も多くいます。VISAの取得や英語も含めたトレーニング代など。

自分の家族に予めある程度の生活費を渡してからくる人もいるので、おおよそ借金の額は2000〜3000ドルくらいでしょうか。

その借金は全て雇用主が一旦、建て替えてくれるので、返済し終わるまでは無休で働くことになります。

例えば月に600ドル貰えるメイドがいたら、そのうちの300〜400ドルを返済に充てるので最初の半年くらいは休暇なしとなるわけですね。

−出稼ぎに来ること自体が、大変ですね。故郷の家族の為に、本当に皆さん頑張って来るんだなぁ・・・。

ウィリアム
ウィリアム

返済が終われば、週に1度(日曜日)は必ず休暇がもらえますのでようやく色々と楽しむことができます。

その時の楽しみもHUBに完備しますよ。
今のFASTオフィスにも娯楽施設はありますが、さらにパワーアップしたカラオケ、ヨガ、フィットネスやクッキングスタジオなど!
さらに高度なスキルやお金の勉強をするための教室も計画しています。

もちろん、困った時にすぐに頼れるようカウンセリングルームも設置します。

現在のFASTオフィスにあるフィットネスルーム。日曜日はみんなここで汗を流しリフレッシュ。

バンドルームも。他に調理室なども完備。週に一度の休暇もここにくれば楽しめそう。

−FASTのHUBには本当に何でもあるんですね!

ウィリアム
ウィリアム

今、シンガポールには毎日250人のDomestic helperがやって来ます。”毎日”ですよ。

私たちFASTが目指しているのは、彼女達に「シンガポールを第二のホームタウンだと思ってもらうこと」です。
居心地よく安心して暮らせる環境を提供してあげたいのです。

−FASTはDomestic helperたちの為の非営利なサポート団体。
出稼ぎに来る女性達の、時には駆け込み寺、また時には学びや憩いの場になっているんですね。

FASTの存在意義。
シンガポールが乗り越えてきた困難。

ウィリアム
ウィリアム

シンガポール政府は1980年代から外国人労働者を積極的に受け入れ始めました。
その数は順調に増え、2000年代に入ると本当にたくさんの–あらゆる–問題が起きました。

例えば、ストレスで限界を迎えたメイドが精神科にたくさん来院しました。

あるいは、高層階から、落下なのか自殺なのかわからない不審な死を遂げるメイドが増加したのです。

そしてこの背景に、「万が一、雇用したメイドが業務中に死亡した場合は保険料の4000ドルが雇用主に入る」という決まりがあります。真相はわかりませんがもしかしたら保険金目当てで、と私たちは想像しています。

だから先に述べたS.I.Pで受ける高所での家事の研修が、非常に重要になってくるんです。

−そんなことがあったんですね。

ウィリアム
ウィリアム

これらの問題を解決するために、様々な知見を持ったメンバーで会議を開きました。
そして私たちは、外国から労働者をたくさん招いておいて、起こりうる問題に全然対応できていないことに気づいたんです。

そこで2005年に彼女達のサポートを全面的に行うFASTが創立します。

FASTが創立してからずっとシンガポール政府に働きかけ、2013年にやっと「毎週日曜日は必ず彼女達に休暇を取らせること」が法律で決まりました。

しかし今度は別の問題が浮上しました。

−今度はなんでしょう?

ウィリアム
ウィリアム

当時、国内の外国人労働者の数はおよそ20万人です。
その20万人が一斉に日曜日に休暇を取るんです。

シンガポールにはいくつか商業施設がありますが、そこに人が溢れました。
ラッキー・プラザにはフィリピン人、ペニンシュラ・プラザにはミャンマー人、シティ・プラザにはインドネシア人といった具合にね。

−もちろん、ローカルの人や観光で訪れた人は戸惑ったでしょうね。

ウィリアム
ウィリアム

そうです。そして、更なる問題も。

シンガポールでは同じように肉体労働の現場で男性の外国人労働者もたくさん受け入れています。

これで、男女が出会う場所と時間ができてしまったわけです。

−恋愛はもちろん悪いことではないけれど・・・。

ウィリアム
ウィリアム

シンガポールでは、妊娠したメイドは故郷へ強制送還される措置があります。
永住権を与えてあげられませんから。

あるケースをお話しましょう。

とあるメイドが交際相手の、外国人労働者の男性にプレゼントするため盗みを働いたんです。
それで捕まってから発覚したんですが、なんと彼女は妊娠していました。

そして彼女の故郷には、既に彼女の夫と子どももいるっていうんです。シンガポールで窃盗を犯し帰国するだけでなく不倫までしていた、なんて故郷の家族が知ったらどうなるでしょうか。

パーソナルな内容なのでこの問題をどのように解決したかは伏せますが、とにかくこのような問題も私たちFASTが介入して助けていきます。

−本当に個人的な問題に、家族のように手を差し伸べてくれるんですね。

ウィリアム
ウィリアム

今後、日本も外国人労働者を受け入れ拡大した際には同じような問題に直面すると思います。
その時にどうするかは、日本では考えらていますか?

−うーん。言葉に詰まります。

ウィリアム
ウィリアム

どんな問題が起きた場合でも、圧倒的に雇用主の方が強い立場にあります。

雇用主が「No」と言えば、彼女達は職を失い、運が悪ければ借金を抱えたまま故郷に帰らなければならなくなることも。
一度、警察に通報されてしまえばそれが例え誤解であっても、私たちからは手が出せない状態になってしまうんです。

だから私たちは創立以来ずっと、政府にお願いし続けていることがあります。
何かトラブルが起きた時、雇用主側からの一方的な要望でVISAの取り消しをしないようにです。
必ず、私たち第三者を挟んで欲しいと言っています。

−彼女達が困っている時は守ってあげ、悪いことをした時は然るべき対応できちんとサポートする。FASTがそんな団体であることがよく分かりました。

高齢化に対する働き方の手立ては?

−日本では現在「働き方改革」や「女性の社会進出」の風潮の中で、”男性の家庭への参加”が度々議論されています。日本人の根本的な考え方として、外から新しい人を入れずになるべく身内で解決しようとするところも理由の1つだと私は考えています。
ウィリアムさんはどう感じていますか?

ウィリアム
ウィリアム

まず、考えて欲しいのは社会的なニーズです。

日本もシンガポールも、高齢化が加速していく問題を抱えています。
2013年の高齢者の割合では、シンガポールの若者1人に対して支えなければいけない老人の数は2人でした。
これが2030年には1人の若者に対して5人の老人を支えていく割合になるそうです。

この数字は日本もほぼ同じだと聞いています。

また、多忙な人が増えると出生率は下がります。
子どもを作り、産み、育てる心と体の余裕がなくなりますからね。
次の世代の担い手の数は減り、若者への負担は増えるばかりです。

ただでさえ夫婦共働きで忙しいのに、家庭の介護や育児を誰の助けも借りずに家族で解決するとしたら、どうなるでしょう?

−日本では、そんな時に頼るべき外部のサービスであるデイホームや保育の現場も、様々な問題を抱えています。

ウィリアム
ウィリアム

外の施設に預けてしまうという手段もあると思います。
でも誰もが、可能ならば老後は自分の家でゆっくりと過ごしたいですよね。

感情なのか?経済なのか?そこをよく考えなければいけない問題といえるでしょう。

−難しいテーマです。

ウィリアム
ウィリアム

シンガポールにとって彼女達の存在はなくてはならないものです。
ですが、彼女達はあくまで外国人労働者。いつかは故郷に帰ります。完全にシンガポールとは同化しないのです。

私たちはシンガポーリアンと彼女たちを繋げる存在です。
完全には同化しないけれど、少しでも近づける努力をしています。

取り組みとしてFAST主催で、雇用主とDomestic helperが一緒に参加するイベントを開催しています。
クッキングコンテストをしたり、雇用主のMVPを決めて表彰したり。
またDomestic helper向けにシンガポールで少しでも長く働いてもらうためのワークショップを開催したりしています。

きっと今後は日本や香港など、他のアジア諸国でもメイドの受け入れ拡大は広がっていくでしょう。

そうなると今度は出稼ぎ先として「シンガポールを選んでもらう」為に、我々受け入れる側の”質”を高めていく必要があります。

一方で、シンガポーリアンにとって彼女達の存在が当たり前になりすぎて、本来は自分でやるべきこと–親の介護を通して大切な家族と対話することなど–が少なくなってきていることも新たな問題です。

−お互いにとって、より良い関係を探り続けていくことが大切なことですね。
どうやって共生していくのか。慎重に、前向きに考えていく必要性を感じました。

FASTのイベントで。ヘルパーの女性達と、写真中央にシンガポールの首相リー・シェンロン氏。

FASTは”出稼ぎに出している側の国”であるフィリピンからも感謝され表彰されている。

FASTは、シンガポールでDomestic helperとして働く女性達にとって「雇用主」でも「エージェント」でもなく、唯一の心を許せる相談窓口のような団体です。
毎週日曜日には、FASTのもとへたくさんのメイドさんが集まり、楽しくお喋りをしたりアクティビティをしたり思い思いの時間を過ごすといいます。
ウィリアム氏は少子高齢化の問題を同じように抱える日本とも、積極的に情報交換し助け合って行きたいとお話してくれました。
日本でも、「どれか一つが最善」というよりは、「最適な選択肢が増えたらいいな」と感じたインタビューでした。

サリー
サリー

インドネシアからDomestic helperとしてシンガポールへ渡った、イパさんへのインタビュー記事はこちら
故郷でスタートアップ事業の成功を目標に。(Ipa Saripah: Domestic helper)

FAST公式ページ
Foreign Domestic Worker Association for Social Support and Training | FAST

シンガポールでのアート醸成を夢見て。(Sarah Isabelle Tan:フォトアーティスト)

インタビューしたSarah Isabelle Tanさん。彼女が撮影したメイドのナニーさんの写真と一緒に。

合理的・実力主義・学歴社会などのイメージがある経済国シンガポール。ふと「ステータスよりも夢を追いかけ奮闘する若者はいるのだろうか?」と気になったので芸術の分野を中心に探してみることにしました。
見つけたのは若手アーティストの作品展示(写真や映像中心)を積極的に行うギャラリーDECK。そこで、去年学校を卒業したばかりの若者6人によるグループ展が開催されていました。
今回お話を聞かせてくれたのはSarah Isabelle Tan(サラ・イザベル・タン)さん。彼女の作品と今シンガポールのアートについて感じていることを聞いてきました。

カメラを通して、
被写体と自分の関係性を見つめ直すということ。

−サラさんは何故、カメラの道を志したのですか?

サラ
サラ

専門学校でファッションを専攻していました。友人がデザインした洋服の写真を撮り始めたのをきっかけにカメラに興味を持ちました。

写真を媒体にして、自分と被写体との関係性を考えていくことが面白いと感じたんです。

−今は写真を撮ることで生計を立てているんですか?

サラ
サラ

私は自分を”フォトグラファー”ではなく”アーティスト”だと思っています。
でも残念ながら、今はまだアーティストとして自分が撮りたい作品だけで生活するのは難しいことも事実です。

それで、時には商業的な写真を撮ることで収入を得ています。
仕事は全て自分のコネクションを通じて依頼をもらいます。
ギャランティーは予算を提示してもらって、そこから自分のできることと照らし合わせて交渉していきます。

−でもカメラの仕事で暮らしていることには変わりないですよね、素晴らしいですね。
日本では、芸能やアートの分野を目指す若者はアルバイトをして暮らしている人がほとんどです。下積み時代は長く、生活が苦しい人も多くいます。また、それに対して苦労することがある意味で”美徳”のような考え方もあります
シンガポールではどうでしょう?

サラ
サラ

シンガポールにもアルバイトをしている人はいますが、大半は学生ですね。
卒業後はキュレーターや安定した会社に入る人の方が多いと思います。しかし最近はフリーランスも増えてきました。

情熱と生活のバランスを取りたい、とは常に思っています。
私も学生の頃はとても感情的で情熱的に生きてきましたが、大人になるに連れて最低限の安定した生活が送れるようにバランスは取っていたいと思います。

−シンガポールでは家賃が高く、結婚するまでは親元で暮らすのが当たり前だそうですね。そういう背景も、冷静に自分の状況を見極めやりたいことに打ち込む心の余裕などを後押ししているのかもしれません。

Domestic helper、ナニーとの関係性

サラさんが撮影したノスタルジックな雰囲気のナニーさんの写真。

幼い頃のサラさんのアルバム写真や、ナニーさんが撮影したサラさんの写真も並ぶ。

−今回の写真展はサラさんのお家でメイド( Domestic helpersと呼ぶ)として働いているナニーさんをテーマにしているそうですね。
何故そのテーマを選んだのか聞かせてください。

サラ
サラ

ナニーは私が生後3ヶ月の頃から私の家に来て、両親と一緒に私を育ててくれ、家庭のことを手伝ってくれています。今も一緒に住んでいます。

ナニーは今、59歳。
シンガポールへDomestic helperとして出稼ぎに来ている方は、介護などの特別な事情がない限り、60歳を限度として故郷へ帰ることが決まっています。
つまりナニーももう少しで故郷へ帰ってしまうんです。

だからこのタイミングでナニーを題材にした写真を展示することにしました。

今回はナニーを、彼女の故郷のフィリピンで撮影しました。
写真に撮ることで、私とナニーの関係性について改めて考えてみたかったんです。
私にとってナニーとはどんな存在?ナニーにとって私はどんな存在?ということを。

−答えは出ましたか?

サラ
サラ

現段階では、”こうである”という明確な関係性ではとても言い切れない、−−すごく大切な人だ–というのが答えです。
今回のプロジェクトをきっかけに、私の幼い時の写真を持ち出しました。展示にも何枚か飾っています。

まだ幼いサラさんを抱き抱えるナニーさん

サラ
サラ

こうして現在の写真と並べて対比することで私とナニーの絆がよく分かってもらえるんじゃないかと思います。

−ナニーさんは故郷のフィリピンに家族がいるんですよね?

サラ
サラ

はい。ナニーには5人の息子と1人の娘がいます。一番上の息子が2歳の時に、ナニーはシンガポールへ出稼ぎに渡り、うちに来てくれました。
その間、ナニーの子どもたちは旦那さんが面倒を見ていたようです。

一番上の息子さんが大人になってから10年間、日本に住んでいた経験があるそうで、娘(ナニーさんにとっては孫)に「アケミ」という名前を付けたそうです。
私はアケミちゃんの後見人にもなっているんですよ。

−それくらい、サラさんとナニーさんの関係は深いということですね。

ナニーさんの息子は写真のマンゴーの木の下で産まれたのだとエピソードを話すサラさん。

サラ
サラ

ナニーは大きな箱にシンガポールで手に入る様々な物資を詰めて、よく故郷に送っていました。食べ物や私の古着、うちでまだ使えるけど不要になってしまったケトルなど。

そして私にもいつもフィリピンの家族の話を聞かせてくれていました。フィリピンの自然やナニーの家の風景なども。

だからナニーと一緒にフィリピンへ行った時、初めて訪れる場所なのになぜかすごく懐かしい感じがしたんです。

ナニーの家族にも、初めて会った気がしませんでした。
彼らも温かく私を迎え入れてくれて、不思議な感じがすると同時にとても幸せでした。

−お互いにとって、家族の一員のような存在なんですね。


シンガポールでのアートの発展について

−さて、シンガポールでは芸術分野を発展させようと政府も力を入れていると聞きます。どんなことが必要だと、サラさんは考えていますか?

サラ
サラ

まだまだこの国ではアート自体に夢中になっている人や知識のない人がほとんどです。

政府が補助金を出すのはInstagramなどで”写真映え”するような、所謂”商業ツール”になり得るものが中心で、そうでもないアートまではなかなか支援されません。

2年前、シンガポールのナショナルギャラリーで草間弥生さんの大規模な展示がありすごく盛り上がっていました。
しかしフィーチャーされたのは彼女の作品のごく大衆的な部分ばかりで、作品の裏にある彼女の人生の苦労や社会的な背景はあまり取り沙汰されなかったように感じます。

もっとアーティストに対する福利厚生が整ったり、社会派の作品にもスポットが当たるようになればいいと思っています。

今回、私が参加させてもらっているDECK(写真展が開催されたギャラリー)にはすごく感謝しています。学校を卒業したばかりのような私たちにも機会を与えてくれるのですから。

−このようなギャラリーが少しでも増えて、誰もが気軽にアートに触れて学べる機会が当たり前になるといいですね。サラさんの活躍もとても楽しみです!

サラ
サラ

日本は世界に誇れるカメラのブランドがたくさんあり、私も何回か訪れたことがあります。

それから日本の和紙がとても好きで、今回の写真も”アワガミ”という種類の和紙に焼き付けています。優しい風合いが出ました。

いつか日本で写真の仕事ができるように、これからも頑張ります!

コンテナを改装してギャラリーにしているDECK。

このフロアではサラさんを含む3人の若手アーティストの作品が展示されていました。

Sarah Isabelle Tan : Profile Page
Sarah Isabelle Tan

Deck Gallery
DECK

生き方のお弁当に、
たくさんの幸せを詰めよう

「お弁当」と聞いてあなたが想像するのはどんなものですか?

家庭によって、容れ物も中身も違うお弁当。
お母さんお父さん、おばあちゃんの手作り。
コンビニで買ったパンやおにぎり、
出来合いのお惣菜詰め合わせ。

その思い出は常に温かいものではなく、
人によっては悲しいものかもしれない。

すごく個人的で、多様。そして正解がないもの。それがお弁当です。

働くということ。

会社勤めの人
職人
命をかけて国や人を守る人
専業主婦(主夫)

給料や内容、楽しさ・やりがいだけでは測れないもの。
そしてやっぱり、
すごく個人的で正解がないところがお弁当と似ています。

友達のお弁当を覗いた時やおかずを交換した時の新しい発見も楽しい。 これは仕事上のアイデアや意見交換とも通じていますね。

みんなで食べるのか、一人で食べるのか。
そのロケーションは?

そういうお弁当の幅広さ・奥深さと
人それぞれ違う「働くこと」
「幸せの捉え方」の気持ちを重ねて、
多種多様な表現ができるメディア、それがエス弁です。

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