ソウルウェアが実施する「自由な働き方」の実態とその意外な反響

※この記事は「「何かを成し遂げる」必要なんてないソウルウェアが考える、令和時代の幸福な働き方」の続きです。:前記事を読む
―吉田さんの、一貫した”人”やその”魂”への想いが、「自由な働き方」を可能にしたのですね。 ただ、あまりに自由だと、企業として統制を取るのが難しくなるように思うのですが……。
代わりに社員に課しているノルマやルールなどはあるのでしょうか?
吉田:社員のことをきちんと見るようにはしていますが、ノルマやルールで社員を縛るのは意味がないと思うんです。
ソウルウェアの査定は、数字によるノルマの評価は行っていないんです。
エンジニアの査定では特に、単なる数字では計りにくいというのもありますし、そもそも、数字による評価には懐疑的なんです。
たとえば、売上計画における「伸び率」なんてものは、本質的にはギャンブルと変わらないと思うんですよ。達成するために努力することはできても、完全にコントロールすることはできません。
そんな数字やノルマに基づいての評価なんて、する方もされる方キツイと思うんです。
売上計画は立てますが、背伸びした「伸び率」を目標にすることも、それを達成するためのガムシャラな労働も求めません。目標を達成しなくても、誰かが責められるというようなこともありません。
また、変化に対応できるように、ルールは必要最低限に留めています。
もちろん、就業規則などの法律で義務付けられているものや、希望があったものは明文化することもありますが。その一つとして、社員から要望があったので、「FIND(見つける)」「FLEX(曲げる)」「CONNECT(つなぐ)」という3つの行動指針は示しました。
―具体的には、どのようなことでしょうか?
吉田:ソウルウェアでは、社員の自立・自律を尊重しているので、上から指示することはほぼありません。“その人自身が課題や解決法を見つける”(FIND)ことを期待しています。理に適っているならば、前例がなくても、常識からはずれていてもかまいませんし。
また、時代や環境によって、メインストリームや常識、ルールは変遷するものです。頑なに変化に抗えば、置いていかれるだけです。
もっとも重要なのは、”状況に合わせて、自分をしなやかに変化させる”(FLEX)ことだと思うのです。
そして、一人でできることには限界があるので、つながる(CONNECT)ことで”より大きなことを達成できる“ようになると思います。さまざまな人をつなぐには、オープンなコミュニケーションが不可欠だとは思いますが。
ちなみに、リモートワークを導入したきっかけは、社員の一人が田舎へ帰るために退職を申し出たことだったんですけど。
リモートワークという方法を見つけ(FIND)、働き方を変え(FLEX)たことで、引き続きつながる(CONNECT)ことができました。
―ここからは、ソウルウェアさんが導入されている働き方について、その実態や反響をお聞きしたいと思います。今では、都内に住む社員たちも、リモートワークを主にしているそうですね。
吉田:はい。多くの社員に、裁量労働や場外みなし時間労働制を採用して、遅刻、早退などの適用をなくすなど、できるだけ緩く運用しています。
そうしたことで、遠隔地にいる人のみならず、全員がオフィスに行く理由がなくなってきたんです。
それでも、宅配便の受け取りや掃除、備品の手配など、ほとんど誰もいないオフィスのためにやらねばならないことが多くあって。
だから、固定のオフィスをやめて、シェアオフィスを導入しました。
シェアオフィスなら自社社員がそれらの雑務を担わなくてすむし、必要なときは打合せや作業の場として使えるなどの利点が多くあったんです。
引っ越す際に、荷物もだいぶ捨てました。抱えているものが多ければ多いほど、今後の変化に対応することが難しくなると思うので。
―ソウルウェアでは、副業ならぬ「福業」を許可されているとお聞きしました。
はい。エンジニアを雇用する際、個人でも別の仕事を持っている人だったんですけど。「干渉しないので、そのまま続けて」というようなことを伝えたと思います。
とはいえ、副業をやみくもに推奨しているわけではありません。
最近は、副業の素晴らしさをはやし立てる記事もよく目にするんですが。兼業すると、どうしてもトータルの労働時間は長くなるじゃないですか。それによって、本人が辛くなったり、身体を壊したり、家族に皺寄せがいっているケースもよく見るんです。
副業によって、自らの人生をないがしろにしてしまうなら本末転倒だと思います。
だからソウルウェアでは、副業に「福業」という漢字を当てています。
幸”福”のための「福業」ができればいいという戒めと願いを込めているんです。
―さまざまな働き方を導入することで、社員たちから何らかの反響はありましたか?
吉田:実は、大きなリアクションはないです(笑)。
私も何らかの宣言をして導入するわけでもないので、社員たちは変化をゆるりと受け入れている感じです。
でも、会話の折にたとえば、「洗濯や宅配便の引き取りがしやすくなった」みたいに言われることは結構あって、嬉しくなりますね。
こういう小さな積み重ねが、生活の質の向上につながるんだと思います。それこそが、私の目指しているものなので。
逆に、ルールがほとんどないことに戸惑う社員は多いかもしれない。先ほどお話しした3つの行動指針でさえ、あまり具体的にはせずに抽象的な部分を残していますから。
それでも、ルールを作らないことにはメリットがあると思うので、別の方法でそういった社員たちを安心させられればと考えています。
―では、吉田さん自身の生活には何か変化はありましたか?
「自由な働き方」という意味では、たぶん私が一番勝手をさせてもらっています(笑)。
18時過ぎには退社したいので、飲み会にもあまり行きませんし、電話もメールもほぼシャットアウトしてしまいます。
企業の代表としてそれで大丈夫なの? と思われるかもしれませんが、徹底するうちに周りも理解してくれるんですよ。飲み会を16時くらいからにしてくれたり。
また、妻は休みがとりづらい職種なので、子どもの保育園の行事には私が積極的に参加しています。おかげで、家庭は円満だと思います。前職では4日連続徹夜勤務のようなこともやっていて、妻との関係も危機的状況だったんです。
家庭の心配事が減ったことで、仕事にもより集中できるようになったと思っています。
―「自由な働き方」を認めることで、さまざまなライフスタイルをもつ人員を採用できるなど、実は企業にとってもメリットが多いそうですが。実際に、他の企業からはどのようなリアクションを受けることが多いと感じますか?
吉田:まだまだ否定的なところが多いですよね。
たとえばリモートワークだと「社員の動向が掴みづらい」のがデメリットだと言われるんですけど。どんな働き方をしていても、サボる人はサボるんですよ。きちんとコミュニケーションを取ったうえで、結局のところは、アウトプットで計るしかないんだと思います。
対面でなければ、きちんとコミュニケーションが取れないというのは、前時代的な思い込み、あるいは怠慢によるものだと思います。現代はさまざまなコミュニケーションツールが発達しているので。
セキュリティ関連の不安もよく聞きます。でも、システム側で権限をきちんと決めて、許可された人が許可された操作しかできないなどの対応を徹底すれば、大きな問題が起きることはありません。
「100%のアウトプットを出せる社員がいるとして、実は勤務時間の8割しか働いていない」としたとき、「残りの2割も働かせて、120%のアウトプットを引き出したい」と考える企業が多いでしょう。
でも、私はそう思いません。100%もアウトプットしているのなら十分じゃないですか。働く時間を増やしたり、拘束を強めることで、アウトプットが高まるとは限りません。
それを求めるのは傲慢ですし、120%出してもらわないと会社が回らないのであれば、経営の怠慢だと思います。
―最後に、吉田さんが今後ソウルウェアを通して実現していきたいことは何でしょうか?
ソウルウェアはIT企業として、「業務の生産性を上げる」製品を作っています。
「業務の生産性が上がったら、余った時間でさらに生産し、売上を増やす」というのが、これまでの当たり前の考え方でした。
でも本当は、余った時間で何をしてもいいんです。のんびりしてもいいし、家族と過ごしてもいいし。もちろん、その人が望むならさらに生産し、売上増に貢献するのもいいですし。
私たちはみんな異なる人間で、それぞれの「魂」が目指すところは違うはずです。それなのに、同じ方向を見ることばかりを強いられてしまっています。 働き方についても、「何かを成し遂げる」ことが重要であり、そのために人生を仕事に捧げることが至上とされていました。退職したり、肌に合わなかったり、結果を出せなければ、それだけで「幸福ではない」というレッテルを貼られることすらありました。でも、それはおかしなことだと思います。
令和の今、多様なライフスタイルや価値観が生まれ、認められはじめています。
これからはより自由な働き方が認められるようになって、多くの人が「魂」を満たせるような幸福な人生を送ることができればいいと思っています。 そのための小さな一歩を、今後も柔軟に変化し続けることで実現していきたいと思います。
これまであまり、ソウルウェアや働き方に関する想いを積極的に発信してこなかったという吉田氏。しかしながら、インタビュアー自身が、自分が働き方についての固定観念に捉われていたことに気づき、何度もはっとする場面がありました。
働き方に正解なんてなく、それぞれが「幸福だ」と思える選択ができるようになることで、救われる人はたくさんいると思います。
「全ての働く人」にあたたかく寄り添い、そしてときには問いを投げかける。そんな記事を、「エス弁」は発信していきます!
編集者

お寺在住のライター・編集者。本と映画と旅、美味しいものを愛しています。どんな日でも明日がほんの少し楽しみになる、そんな記事を発信していきます。